---lesson 5・2---
プティ・ガトー
前回大会で味覚を担当した武藤シェフのガトーを、『本当に素晴らしいバランスだった』と賞される中島シェフ。
中島シェフは、WPTCとしての第1回大会に出場されたメンバーのお一人。これまでの大会をご自身の経験からチームJAPANをサポートされてきた中島シェフはどのようにプティガトーについて考えてらっしゃるのでしょうか。4つの質問に答えていただきました。
コンクール向けのプティガトーを考えるときに、一番はじめに考えるのはどんなところですか?素材ですか?組み立て方ですか?
『まず考えるのは、作る人 つまり自分が一番おいしいと思う組み合わせです。
組み合わせを考えるうえで大切なことは、もちろん自分のアイディアや感性といったものですが、伝統的な組み合わせを見聞することがアイディアを生み出すために大切なことだと思います。
古くからの組み合わせというものを見聞していくと、基本となる仕事の技術や味の組み立て方というものが見えてきます。こういったことがわかったうえで、自分を表現する組み合わせをつくり出せるようになりました。
また、コンクールという観点より考えると 審査員の五感を刺激するものを取り入れることが重要になります。
「目で見て」・「香りを感じて」・「口の中に入れたときのテクスチャー」でインパクトある組み合わせを作る。ほとんどに審査員がひと口程度しか食べない中で、そのひと口で何のお菓子かパッとわかるようにすることも重要なことです。』
チョコレートのプティガトーとフルーツのプティガトーを一緒に食べてもらわなくて
はならないとき、どのようなことに注意されますか?
『WPTCでは、3種のプティガトーを作りますが、個々の完成度も3つを食べたと時のバランス感、満足感も重要です。
チョコレートのプティガトーとフルーツのプティガトーに関してはそれぞれの特徴を生かしたものである必要があります。
甘みの差や酸味の差、塩分の入れ具合やテクスチャーの差をしっかりと出して、2つのガトーに特徴を持たせます。
チョコレートのプティガトーであれば、甘みはそれほど強調せず、ガナッシュ、生地、クリームやムース、食感を表現するものなどそれぞれの食感のバランスを生かします。前回の武藤シェフがつくったチョコレートのプティガトーなどはその食感を持って完璧に特徴を表現したプティガトーでした。
また、“チョコレート”とひとくくりにしていますが、1種類のものだけで構成するもの、パーセンテージの違うチョコレートを使い分けたり、ブレンドしたりすることでさまざまなお菓子を構成することが可能になります。
フルーツのプティガトーの場合は、フルーツの味やうまみを強調するために甘さをしっかり付けます。それだけではなく、テーマとなるフルーツは1種にします。ただ、1種類のフルーツのみで構成するのではなく、主体となるフルーツの味を引き立てる素材をブレンドするようにするのです。たとえば、マンゴーのムースを作るときはパパイヤやレモンで味を加えることでより、マンゴーがマンゴーらしく引きたちます。バナナならアボガドを少し加えてみたり。イチゴなら、フランボワーズやフレーズデボアを合わせたり。
この組み合わせ、引き立てるために加えるものを決めるのは、経験や見聞の中から生まれてきます。中でも基本となる考え方としては、「赤い実には赤い実のもの」、「トロピカルフルーツにはトロピカルフルーツを」「エキゾチックなものにはエキゾチックなものを」と共通点のあるものを合わせてやること。
さらに、私ならフルーツのプティガトーには余計な食感は組み込まないようにしますね。
こうすることで、チョコレートのプティガトーと同じタイミングに食べる審査員にもしっかりと違いをアピールすることができるでしょう。それだけではなく、どちらも印象付けることができるのではないでしょうか。』
プティガトーに食感を与える時、どのような構成から考えますか?ムースを主にして、ビスキュイを考えますか?ビスキュイを主にして、ムースその他を考えますか?
『それは、ケーキによってさまざまではあるのですが、まずは何をおいしいと感じてもらうお菓子にしたいかということ。次に食べる人にそう感じてもらうための構成を考えていきます。
先ほどもお話ししたように、例えばチョコレートのガトーであれば生地・ガナッシュ・クリーム・ムース・シャンティイショコラ・クルスティアンなどさまざまな食感のパーツがありますが、下から食感の重たいものを組み立てていくのが基本となるでしょう。フルーツのガトーであれば、フルーツの香りやうまみを出すためのムースやクリームを使用することを決定した後に、生地を合わせるか パートシュクレ等を合わせるかを考えていきます。
こうしてパーツをチョイスしていくときに気をつけた方がよいことは、コンクールの場合は特に 審査員がフォークでガトーをひと口分すくいあげるということ。 そのひと口でガトーのおいしさを伝えることが出来る構成にすることは必須です。また、ひと口をすくいあげにくかったり、そのあとの断面が汚くなってしまったりということでストレスを与えないようにすること。シュクレなどを使うときには、特に気をつけることが必要です。食感を強調するために底に堅い生地を持ってきたガトーの場合、フォークを入れたときにお皿にあたったフォークが「カツン」と音を出してしまうこともストレスのひとつになるので気をつけたいものです。シュクレ生地であってもほろっと崩れるようなものを合わせたり、ムースなどから染み出る水分量で審査員が食べるタイミングには適度に水分を含んだ状態になるように調整したりというところまで気をつけることも必要です。』
世界を意識するプティガトーを作るとき、日本のお客様向けに作るときと比べて、大きく違う点はありますか?
『WPTCなど世界のコンクールでは、やはり世界的な基準があると思います。さまざまな国のパティシエ・審査員がいる中で、基準とされるのはフランスのお菓子になるのではないでしょうか。甘みの基準などは、日本では少し甘みが強いと感じられるものでもフランスではスタンダードだったりします。また、ひと口でそのケーキはどういうものかを伝えることができる味のインパクトが必要です。ハーブや胡椒、塩の利かせ方や、キャラメルの焦がし具合など、フランスのお菓子や世界のトップレベルのお菓子を食べることによって、自分で世界の基準を感じてみます。そのガトーの素材の活かし方はどのようにされているかを研究します。
ホテルニューオータニ内にある“パティスリーSATSUKI” には、日本素材を使ったケーキを多く並べています。ホテルという環境柄 海外からのお客様をお迎えするお店の中で、日本の素材を使ったガトーを提供することで日本の食文化を知っていただくきっかけにもなっています。しかし、コンクールにおいては日本の素材を使ったとき審査員がその素材が何かわからなければ、評価としては下がってしまいます。現段階で世界のコンクールでも通用し得る和素材はお茶・抹茶くらいなのではないでしょうか。』
最後に、これからコンクールに挑戦しようとされているパティシエの方に向けて メッセージをいただきました。
『以前、ピエールエルメ氏から聞いたことですが「お菓子を作る事は”味の建造物を構築する事である”」と。基礎となる地盤をしっかり作り、そして柱となる味の組み立てを構築する。必要としない物は勇気を持つてとり除いて行くという考え方を意識してお菓子つくりをするとデザインもシンプルで味の構築も上手くいく場合が多くあります。
味の組み立てをする中で、重要なのはやはり“基本である”とエルメ氏もおっしゃっていました。あれだけの独自の組み合わせを表現していく彼がもっとも大切にしているものが伝統や古くのレシピや技術であること。自分のアイディアや感性がもちろん大切ではあるけれど、基本が大切であることが彼を見ていると良くわかります。
これからコンクールを目指している方に古くの文献を読むこと、基本の技術ができること、そして世界トップレベルのお菓子をたくさん食べて、どのようにそのお菓子が表現されているか、どうすればその素材の良さを引き出すことができるかを研究していっていただきたいですね。』
解説:WPTCJAPANオフィス ホテルニューオータニ 中島氏
文:WPTCJAPANオフィス 上村氏
編集:株式会社アニー 山田
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